『ボケとツッコミ』

初めまして!株式会社エピグラズムの代表取締役、山本正美と申します。このブログでは、僕が普段考えていることや、見たもの観たもの読んだもの遊んだものの感想など、ゲームを作りながら感じる様々なことを、ちょっとナナメ上の視点から綴っていけたらと考えています。

僕はこれまで、ゲーム業界で30年以上過ごさせてもらってきました。その大半は、「プロデューサー」という立ち位置での仕事だったわけですが、具体的にどんなタイトルに携わってきたかはプロフィール欄をご参照いただくとして、さて、皆さんは「プロデューサー」という役割にどのようなイメージをお持ちでしょうか。

プロデューサーは、山師、ペテン師、はたまた錬金術師?

山師、ペテン師、はたまた錬金術師?

というわけで、一回目は、ゲーム制作におけるプロデューサーという役割について書かせていただこうと思います。

僕は、プロデューサーとは、一口で言うと、お笑いコンビでいうところの「ツッコミ」だと思っています。ちなみに「ボケ」の役割を担当するのは、ゲームディレクターを筆頭に、制作に関わるすべての人、そしてモノ。企画にツッコミ、デザインにツッコミ、上がったビルドにツッコミ、プロモーションプランにツッコむ。開発のすべてのシーンに立ち会い、あれやこれやとツッコミまくる。そうして不透明な部分を透明にし、商品性を作り上げていく。それが、僕の考えるプロデューサーという仕事です。

有能なツッコミは、有能な「通訳」であれ

ダウンタウンの浜田雅功さんの有名な言葉ですが、有能なツッコミは、有能な「通訳」でもあります。

ゲームの魅力って、本当のところは触ってみないと分からないもの。ですが制作過程においては、企画の初期から発売まで、生まれたアイデアやできあがってきた成果物に対して、それまでの経緯や都合を知らないたくさんの人達に、そのコンテンツの魅力を端的に伝えていかなければなりません。小説家が、思いを一言で表現できないから百万言尽くして小説を書くように、基本的にディレクターという職能は、ゲームという表現手法に魅せられ、ゲームを遊ぶことでしか味わえない価値を追求しようとする人のことを言います。そのディレクターに対し、ゲームの魅力を一言で伝えろ、というのは酷な話。それができないから、彼らはゲームを作るのですから。

だからこそプロデューサーは、その「伝えること」に百万言尽くさなければならない。新たに生まれそうな「価値」にツッコミを入れ、その価値そのものをディレクターやスタッフと向上させていき、可能性や魅力を分かりやすく通訳し、支えてくれる人達やお客さんに伝える必要があるのです。

プロデューサーに求められる「正しく伝えすぎない」センス

そして逆説的に、プロデューサーには、企画が持つポテンシャルを「正しく伝え過ぎない」、というセンスも要求されます。これはもちろん、オーディエンスを「騙す」ということではなく、受け手が好きにイメージできる隙を残しておくことも必要だ、ということです。すべてが事前に理解できてしまうようなモノを、誰もわざわざ買ってまで欲しいと思わないですからね。「良い意味で期待を裏切る」という達成は、つまりそういうセンスがあって実現できることなのだと考えています。

芸人さん同様、ディレクターにも「天然」タイプや「計算」タイプなど、色んな個性の人がいます。鎬を削り合う中で笑いを成立させることは、本当に難しい。でも、「ボケ」と合致した「ツッコミ」を放つことによって爆笑が起きたとき、本気で体の芯が震えます。しかも、世界中の人にその成果が届くチャンスがある。

仕事に関わらず普段から色んな「ボケ」を発見し「ツッコミ」を入れることが、プロデュースワークを磨く訓練になる。このブログが、そんな場になるといいなあと思っています。

どうぞ、これからよろしくお願い致します!